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ビデオ特集

Vol.3, March 2015

片岡一則氏


東京大学
大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/
大学院医学系研究科疾患生命工学センター
教授 工学博士

「体内病院」

私達が川崎で行う研究の目的は、病気が気にならない社会をつくるということです。そのコンセプトとして私達が考えているのは「体内病院」です。体の中を巡回しその人を常に見守って事前に病気を診断したり、悪いところがあれば自然に病気を治療したりするようなシステムを将来的には作りたい。それを実現する技術としてナノテクノロジーに注目をしています。ちょうどこの川崎はものづくりのまちですから、ナノテクノロジーを生かしたものづくりの力で、いつでもどこでも誰でも使える医療技術を実現し、みんなが病気を気にせず自然に健康になっていく、そういう社会を実現したい — これが体内病院のコンセプトです。

体内病院を実現するには、体の中で私たちを見守り、体の隅々まで入っていって診断・治療を行うウイルスサイズのナノマシンが必要です。ナノマシンに何かを見つける機能、それから治療に必要な物質を放出する、あるいは働かせる機能などを盛り込みます。技術基盤は既に確立しており、病気の診断や治療に向けてナノマシンを実用化させていきたいと考えています。

シビックプライド

私は以前、川崎市長から「シビックプライド(市民のプライド)となる研究所をつくってください」と言われました。私はこの言葉に非常に感動いたしました。シビックプライドになるような技術をつくり、世の中に広めていきたいと思いました。具体的には難治がんやアルツハイマー病の根本的な治療につながるようなナノマシンを作っていきたいと考えています。

研究の進め方

がんは再発転移して病巣が広がるので怖い病気なのです。問題は再発・転移に対して私たちのナノマシンがどれだけ有効かということです。さらなる実験で有効性を明確にしていきたいです。「体内病院」として働き、病気を治療するために、体の中にナノマシンを導入するのです。

ナノマシンの開発を自動車の開発に例えてみます。まずはじめに自動車は大きな推進機能と動きを制御する技術を必要としました。次にレーダーを使って自動でブレーキがかかるといったシステムができました。そして最終形は完全に自律的に運転されるドライバーなしの自動車です。

これと同様にナノマシンを進化させていきたいと考えています。

優先課題は脳

やはりですね。血管を通って脳に入っていけるナノマシンを組み立てたいです。
脳の血管は非常にバリア性が高く、異物を通過させないようになっています。最近私たちはナノマシンの表面に、一種の『分子バーコード』を付けました。これにより、ナノマシンが血管の内側の細胞に結合して、さらに細胞の中を通過していくことができるという事実が分かりました。この技術に基づき脳に薬や抗体などを送り込むことで、アルツハイマー病治療が可能になると思っています。

また、ナノマシンの中に光や超音波が当たると活性化したり薬を放出したりする、つまりスイッチが入るような物質や薬を入れておき、まずは患部に送り届けます。そうしておいて、体の外から光、超音波、磁場等を与えることで「スイッチ」を入れ、患部だけを直してしまうことも可能です。

「ミクロの決死圏」で治療する

1966年のアメリカでつくられた「ミクロの決死圏」という映画がありました。医者が小さくなってマイクロ潜水艦に乗り、患部まで行ってそこで治療をするという内容です。これと同じようなことが実現するということです。体の中でピンポイントの手術が行われるので、切らない手術ができるということになります。最終的には「自律」を目標にしています。先の話ですが、小さなナノマシンが、常に体の中をぐるぐる回っていて、何か異変があれば直してしまう。あるいは外部に体内の情報を伝えるということもできるのではないかと思います。

これこそが体の中を自律循環しながら治療・診断を行う体内病院です。

キングスカイフロントが向い側の羽田空港と世界とつながる

キングスカイフロントの大きな特徴は何といっても羽田空港の向かい側にあるということです。これは国際化の大きな利点です。

このキングスカイフロントで開発され、実用化された技術をどんどん世界に送り出していきたいです。
ナノマシンには新しい薬やそのほかいろいろなものを組み込むことができます。ですので、世界中から薬などの「部品」がキングスカイフロントに集まり、キングスカイフロントでナノマシン化して、また世界に送り出すということもできると思います。

それから人材交流ですね。技術や人材を国際化するうえで、空港に直結しているのはあらゆる面で非常に大きなメリットですし、世界といち早くネットワークを構築していける環境は非常に重要です。