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ビデオ特集

Vol.16, September 2019

浅井克仁氏

株式会社遺伝子治療研究所
代表取締役社長

1.遺伝子治療について

遺伝子治療というのは、遺伝子を直接人の細胞に入れて、それで病気を治す技術になります。90年代の半ばにアメリカで開発されまして、その後に技術改良が進みまして、今、アメリカでは細胞治療や再生医療と比べても遺伝子治療の方が数としても申請件数も多くなっていましてブームを迎えています。

その中心となる技術開発、技術革新の内容は、一つは遺伝子導入をする際に、アデノ随伴ウィルス、AAVと呼んでいますが、このベクターを使うようになりました。このAAVベクターを使った遺伝子導入というのは、非常に効率が良く、安全性が高いものです。これまで、世界で200を超える人での臨床研究、あるいは臨床試験が行われていますが、このAAVベクターでは今まで事故は全くありません。

そもそもAAVベクターというのは病原性のないウイルスで、なおかつ遺伝子導入を行う際にはそのAAVベクターが目的となる遺伝子配列を目的の細胞に導入する機能だけを使います。もともと病原性はないのですが、それ以外の余計な配列というのは全て取り除いてあります。ですから副作用が起こる可能性は極めて低いのです。

ではこの遺伝子治療は普通の薬の開発と比べて患者さんにとってどのようなメリットがあるかという点ですが、まず今まで薬を届けられなかった脳内、あるいは脳内の神経細胞に直接薬のもととなる遺伝子配列を導入することができます。

それによってこれまで治療方法がなかった筋萎縮性側索硬化、ALSという重篤な病気 を治せたり、あるいはパーキンソン病の根本治療を可能にすることが出来ますし、それからアルツハイマーですね。今後、大きな社会問題となってくるアルツハイマー病を、予防も含めて私たちの技術で治療する事ができるようになります。そういった点で患者さんにとってはベネフィット、利益があると思います。

もう一つ重要な事は一回投与を行えばその効果は一生涯続きます。つまり、一度投与すればその後に薬を飲む必要がなく病気が改善します。副作用がないという点も合わせてお話しすれば、患者さんにとってみれば夢のような治療方法ではないかと思います。

2.遺伝子治療研究所の特徴

私たちのこの会社の元になる研究は、自治医大の村松教授が90年代から行ってきた基盤をベースに会社を設立しています。従って、自治医大を含めた国内の数多くの大学と共同研究を行っており、日本の中のAAVを使った遺伝子治療の研究のハブになっていると思います。アメリカではこのAAVの遺伝子治療をしている会社は数多く、20を超える会社が上場していますが、そのような会社と比べた場合、開発しているプログラムの数は非常に多くなります。

村松先生の発明ですが、私たちは、独自のAAVのベクター、つまり遺伝子を導入する独自の技術を持っています。これはアメリカで開発された遺伝子導入方法と比べて、非常に効率の良いものになっていて、こういったところが強みです。加えて、私たちは今、医薬品としての製造基準を満たす製造設備を川崎市内に設置して稼働しています。このAAVベクターの遺伝子治療の製剤を作る施設としては日本で初めて、製造業の許可を取得しております。

3.現在の研究の進展状況

私たちの先行している開発プログラムは、孤発性のALSの遺伝子治療を、来年になると思いますが、治験を行うことを計画しています。
それに続きパーキンソン病の治験も、来年の後半になると思います。日本及びアメリカ、ヨーロッパで同時に治験を開始する計画を立てています。

4.将来の展望

私たちの治療方法が、今まで根本治療のない病気について有効である、そして安全であるということを、まず、いち早く患者さんに証明したいと思っています。その上で、できるだけ多くの方に、この遺伝子治療を行ってもらえるような改善をしていきたいと思っています。実は、日本でAAVの実用化を行っている会社というのはあまり多くありません。

来月、ヨーロッパの製薬会社ノバルティスが日本で初めてAAVを使った遺伝子治療の承認を取得する事が予想されています。それに続きまして私たちもご説明しました難しい神経系の難病の承認取得を目指していくことになります。ただ残念ながらヨーロッパやアメリカの製薬会社は一回の治療代として2億円を超える設定をしています。我々が承認を行う段階では、この2億円が10分の1から100分の1くらいの費用で実現できるような技術開発を続けています。

5.キングスカイフロントへの期待

研究や開発、そして製造に 集中できる環境になっています。今入っている施設の中でも連携をしている企業があります。バイオ産業が集積しているこういった地区で研究できる、開発ができるのは我々にとってありがたいことです。

今はまだ、実験施設と製造施設を一つ持っているだけなのですが、これからは様々な病気に対して、できるだけ多くの遺伝子治療の製剤を作っていかなければなりませんので、工場の拡張を計画しています。 キングスカイフロントの中に第二工場、第三工場を作る予定です。