リサーチハイライト
Vol.6, February 2016
新型ノロウイルスを監視する
ノロウイルスはウイルス性胃腸炎の主要な病原体であり、感染すると嘔吐や下痢などの症状を呈する。近年まで、世界各地での流行は、主にノロウイルス遺伝子型GII.4によるものであった。しかしながら、2014~2015年冬季シーズンには、日本において新規変異株による流行が発生した。この新規変異株はノロウイルス遺伝子型GII.17の変異株であった。
川崎市健康安全研究所の清水英明らは、ノロウイルスGII.17株に起こった遺伝子変異を明らかにすべく、他の研究者と共同して、川崎市で検出されたGII.17変異株及び2013~2015年に日本で流行した他のGII.17変異株計6検体の全長遺伝子配列を、次世代シーケンサーを使って解読した1。その結果、すべての検体のウイルスの殻を構成している主要タンパク質(カプシド領域)の遺伝子型はGII.17に分類されたものの、既存のGII.17とは異なる塩基配列を持つことが示された。また、RNAポリメラーゼ領域の遺伝子型については分類することができず、これまでに報告のない独特な塩基配列を有することが判明した。
清水らは、これらGII.17変異株のカプシド領域とRNAポリメラーゼ領域における新たな遺伝子変異から、本ウイルスを新規遺伝子型に分類する必要性があると提案した。当該変異株は、Hu/GII/JP/2014/GII.P17-GII.17と命名された。
清水らはまた、2014年11月から2015年3月までの期間に日本で流行したGII.17株は変異型であること、そして新規RNAポリメラーゼ(GII.P17)とウイルスのカプシド領域(GII.17)に複数のアミノ酸置換があることを発見した。
さらに、ノロウイルスの系統樹解析の結果、同新規株は2013年からアジア地域で密かに流行していた可能性が示された。また、同新規株は過去に検出されていたGII.17株とは進化過程が異なることが考えられた。
新規変異株は宿主の免疫系を回避し、将来的に全世界的なノロウイルスの流行を引き起こす可能性があるため、注意深く監視する必要があると研究者らは述べている。
Reference and affiliations
- Y. Matsushima1,2, M. Ishikawa1, T. Shimizu1, A. Komane1, S. Kasuo3, M. Shinohara4, K. Nagasawa5, H. Kimura5, A. Ryo2, N. Okabe1, K. Haga6, Y.H. Doan6, K. Katayama6, H. Shimizu1.
Genetic analyses of GII.17 norovirus strains in diarrheal disease outbreaks from December 2014 to March 2015 in Japan reveal a novel polymerase sequence and amino acid
substitutions in the capsid region. Euro Surveillance 20 (26): pii=21173 (2015) - Division of Virology, Kawasaki City Institute for Public Health, Kanagawa, Japan
- Department of Microbiology, Yokohama City University School of Medicine, Kanagawa, Japan
- Division of Infectious Diseases, Nagano Environmental Conservation Research Institute, Nagano, Japan
- Division of Virology, Saitama Institute of Public Health, Saitama, Japan
- Infectious Disease Surveillance Center, National Institute of Infectious Diseases, Tokyo, Japan
- Department of Virology II, National Institute of Infectious Diseases, Tokyo, Japan
*Correspondence: shimizu-h@city.kawasaki.jp
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