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リサーチハイライト

Vol.6, February 2016

治癒過程を促す精密デザイン

近年、再生医療用の標的治療薬の開発に向けた研究が加速している。このような治療薬にはさまざまな応用の可能性がある。その一例として、体内で自然な治癒および組織再生プロセスを人為的に誘発することがある。

今回、東京大学の菅裕明教授と金沢大学の松本邦夫教授は、日本各地の科学者と共同で、組織および創傷治癒能の向上に直接関与するヒト増殖因子(HGF)シグナル経路を活性化するペプチド分子をデザインした。

このような細胞活性を促すシグナル伝達カスケードの誘発では、HGFが、Metと呼ばれる受容体型チロシンキナーゼと相互作用し、二量体化した(対になった)分子複合体を形成してシグナル伝達カスケードを活性化する。人為的にこのような相互作用を起こさせ、シグナル伝達カスケードを誘発することは、重要な治療目標である。

研究チームは、Metに結合し、HGFの機能的役割を再現するペプチド分子のデザインに取り組んだ。Random Nonstandard Peptides Integrated Discovery(RaPID)システムを用いて、数千にのぼる分子デザインが検討された。主要な目標は、患者で予測不能な反応を引き起こすことなく、Metシグナル伝達カスケードを活性化できる安定した分子の創製であった。

研究者らは、Metにしっかりと結合できる3種の二量体化した大環状分子を精選し、ヒト、マウス、およびイヌ細胞を対象に、シグナル伝達カスケードの活性化における有効性を検討した。その結果、ヒト細胞および大環状ペプチドを含むコラーゲンゲル(濃度10nM~100nM)中で、細胞増殖および分枝形態形成(微小管状構造の形成)の誘発が認められ、これら大環状分子はヒトMetに限定して活性化させるという高い選択性が証明された。

今回の研究結果は、組織ダメージの修復をはじめとする潜在的応用への、非タンパク質ベースの再生医薬品創製に向けた力強い第一歩である。また、RaPIDシステムは、他のシグナル伝達カスケードの引き金として機能できる他のペプチドの探索に非常に有望な方法であることが示された。

Reference and affiliations

  1. K. Ito1, K. Sakai2, Y. Suzuki2, N. Ozawa1, T. Hatta3, T. Natsume3, K. Matsumoto2 & H. Suga1.
    Artificial human Met agonists based on macrocycle scaffolds. Nature Communications 6 (6373) (2015)

      1. Department of Chemistry, Graduate School of Science, The University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan.
      2. Division of Tumor Dynamics and Regulation, Cancer Research Institute, Kanazawa University, Kanazawa 920-1192, Japan.
      3. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Biological
        Information Research Center, Tokyo 135-0064, Japan.

      Correspondence: kmatsu@staff.kanazawa-u.ac.jp or hsuga@chem.s.u-tokyo.ac.jp

      Figure:

      東京大学および金沢大学の研究者らによって、Metシグナル伝達カスケードを誘発し、創傷治癒および組織再生を促進する、二量体化した大環状ペプチドが創製された。今回の結果は、安全な再生医薬品の創製に資するであろう。