リサーチハイライト
Vol.2, December 2014
酒類に含まれるポリフェノールがアルコール摂取によるストレスを緩和する可能性
ワインや蒸留酒に含まれるポリフェノールの摂取で発現が上昇する遺伝子とその発現を調節する蛋白質を特定する研究により、これらのポリフェノールがアルコール摂取により生じるストレスを緩和する可能性が示された。
東京大学の三坂巧准教授、前橋工科大学の安岡顕人准教授(現神奈川科学技術アカデミー研究員)、東京大学ならびに神奈川科学技術アカデミーの研究者らは、最新の論文において、「慢性的なアルコールの摂取はエネルギー代謝に悪影響を及ぼすが、同時に肝臓の遺伝子発現にも顕著な変動を引き起こす」と指摘する。研究者らは、これらのプロセスを解明すべく、遺伝子調節に対するアルコール投与の影響について、ポリフェノールを含む場合と含まない場合を比較し、アルコール摂取で生じるストレスを緩和するために可能なアプローチを明らかにした。
研究者らはマウスを4群に分け、それぞれにエタノール含有食、エタノールおよびエラグ酸(EA:ウイスキーなどに樽から溶出するポリフェノール)含有食、エタノールおよびトランスレスベラトロール(RSV:ワインに含まれるブドウの皮由来のポリフェノール)含有食、および水(対照)含有食を5週間にわたり摂食させた。その後、各マウスの肝臓の脂肪蓄積を調べたところ、エタノール食を摂取したマウスでは非エタノール食を摂取したマウスに較べて4倍の脂肪が蓄積していた。一方、エタノールとEAまたはRSV食を摂食していたマウスでは、対照食を摂取していたマウスと同程度にまで脂肪量が減っていた。さらに遺伝子発現解析により、発現が変化した遺伝子の種類が、エタノール+ポリフェノール群とエタノール群の間で異なること明らかになり、ポリフェノールがより健全な代謝プロセスを促している可能性が示唆された。
次に研究者らは、EAやRSVなどの植物由来化学物質に反応することが知られている核内受容体、Constitutive Androstane Receptor(CAR)の役割を調べた。CARを欠損したマウスの遺伝子発現を解析したところ、エタノールとポリフェノールを摂取させた場合に見られた緩和効果が見られなかったことから、CARがこれらの調節効果を介在していることが示唆された。研究者らは、「われわれの研究は、日常的に摂取される食品因子であるポリフェノールがアルコール性脂肪肝を予防する分子的機序を示すものである」と論文を結んでいる。
Publication and Affiliation
Ruiqing Yao1, Akihito Yasuoka2,3*, Asuka Kamei3, Shota Ushiama1, Yoshinori Kitagawa4,
Tomohiro Rogi4, Hiroshi Shibata4, Keiko Abe1,3, Takumi Misaka1* Nuclear Receptor-Mediated Alleviation of Alcoholic Fatty Liver by Polyphenols Contained in Alcoholic Beverages. PLOS ONE, 9, e87142, (2014).
- Department of Applied Biological Chemistry, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan
- Department of Biological Engineering, Maebashi Institute of Technology, Maebashi-shi, Gunma, Japan
- Kanagawa Academy of Science and Technology, Takatsu-ku, Kawasaki-shi,
Kanagawa, Japan - Institute for Health Care Science, Suntory Wellness Ltd., Shimamoto-cho, Mishima-gun, Osaka, Japan
*corresponding authors, e-mail address:fp-yasuoka@newkast.or.jp;
amisaka@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
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