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リサーチハイライト

Vol.1, August 2014

トランスジェニック-遺伝子操作が次の時代へ トランスジェニックマーモセットとその仔で導入遺伝子の発現を確認

トランスジェニック(遺伝子改変)は遺伝性疾患の治療を実現する可能性がある。それは生物の性質を変える遺伝子を導入するという方法だ。マーモセットは小型の霊長類である。今回、胚への遺伝子導入を経て誕生したマーモセット(トランスジェニックマーモセット)とその仔において、導入遺伝子の発現が確認された。研究者らは論文において、その手法は「トランスレーショナルリサーチ、再生医療および遺伝子治療の研究、ならびにトランスジェニックマウス、ヒト疾患モデルおよび実際のヒト疾患間に存在する未知領域の科学的解明に向けた遺伝子改変霊長類モデルの作製を実現する可能性がある」と結論している。

遺伝子導入による嚢胞性線維症遺伝子のノックアウト(機能の欠失)が、ブタにおいてすでに実証されている。マーモセットは遺伝学的にブタよりもヒトに近い。また、より早期に性成熟を迎え、多産であるため、遺伝子改変研究に有用である。しかし、これまでの研究では、トランスジェニックマーモセットの細胞において、導入遺伝子の発現は確認されていなかった。

神奈川県川崎市にある実験動物中央研究所の研究者らは、緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現する遺伝子を運ぶウイルスベクターを用いた。これにより、生きた胚および動物における導入遺伝子の発現状況を、相対的に非侵襲的に評価できるのだ。研究者らは、発生のかなり早い段階で胚に遺伝子を導入し、導入遺伝子の発現が認められた胚を仮親の子宮に移植した。受精卵をスクロース(糖類)液に入れると受精卵が脱水して縮小し、その結果、ウイルスベクターを注入できるすき間が広がり、より多くの遺伝子を導入することができた。

誕生した5匹のマーモセットのうち4匹の毛、血液および皮膚細胞で導入遺伝子の発現が確認された。さらに、そのうち1匹では成熟期に生殖細胞で導入遺伝子の発現が確認され、その仔でも同遺伝子の発現が確認された。これにより、導入遺伝子が「生殖細胞系列を介して」次世代へと伝達されることが示された。

Publication and Affiliation

Erika Sasaki1*, Hiroshi Suemizu1, Akiko Shimada1, Kisaburo Hanazawa2, Ryo Oiwa1, Michiko Kamioka1, Ikuo Tomioka1,3, Yusuke Sotomaru5, Reiko Hirakawa1,3, Tomoo Eto1, Seiji Shiozawa1,4, Takuji Maeda1,4, Mamoru Ito1, Ryoji Ito1, Chika Kito1, Chie Yagihashi1, Kenji Kawai1, Hiroyuki Miyoshi6, Yoshikuni Tanioka1, Norikazu Tamaoki1, Sonoko Habu7, Hideyuki Okano4* and Tatsuji Nomura1 Generation of Transgenic Non-Human Primates with Germline Transmission. Nature, 459, 523-528, (2009).

  1. Central Institute for Experimental Animals, 1430 Nogawa, Miyamae-ku, Kawasaki, Kanagawa 216-0001, Japan
  2. Department of Urology, Juntendo University Nerima Hospital 3-1-10 Takanodai, Nerima-ku, Tokyo 177-8521, Japan
  3. Center for Integrated Medical Research, Keio University School of Medicine, 35 Shinanomachi, Shinjukuku, Tokyo 160-8582, Japan
  4. Department of Physiology, Keio University School of Medicine, 35 Shinanomachi, Shinjukuku, Tokyo 160-8582, Japan
  5. Natural Science Centre for Basic Research and Development, Hiroshima University 1-2-3, Kasumi, Minami-ku, Hiroshima 734-8551, Japan
  6. Subteam for Manipulation of Cell Fate, RIKEN BioResource Centre, 3-1-1 Koyadai, Tsukuba, Ibaraki 305-0074, Japan
  7. Department of Immunology, Tokai University School of Medicine, Bohseidai,Isehara, Kanagawa 259-1193, Japan

*corresponding authors, e-mail addresses: esasaki@ciea.or.jp or hidokano@sc.itc.keio.ac.jp

Figure:

トランスジェニックマーモセット:584(翡翠[ひすい])(左上)、587(わかば)(右上)、588(ばん子)(左下)、双子の594(蛍[けい])/666(光[こう])(右下)。翡翠、わかば、およびばん子には、EGFPを搭載した、蛍と光に注入されたのとは別の種類のウイルスベクターとプロモータが使用された。各画像内のボックスは、足の裏の落射蛍光顕微鏡画像(右:トランスジェニックマーモセット、左:野生のマーモセット)。ばん子を除くすべてのトランスジェニックマーモセットの足の裏で緑色の蛍光発光が認められた。光は蛍光強度がわずかに弱かったものの、その仔には導入遺伝子が引き継がれた。