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リサーチハイライト

Vol.8, December 2016

初の重症複合免疫不全症非ヒト霊長類モデル

げっ歯類モデルから、遺伝子疾患を含むさまざまな疾患について多くの知見が得られている。その一方で、人体での疾患進行をより正確に示すことができる非ヒト霊長類モデルの必要性が高まっている。ゲノム編集技術における最近の進歩によって、X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)など、特定の遺伝子疾患研究に向けた非ヒト霊長類モデル作製への道が開かれつつある。

X-SCID患者では、感染症に立ち向かうT細胞とナチュラルキラー細胞が十分に産生されない。IL2-RG遺伝子の異常に起因するX-SCIDとその治療法の向上に向けた研究が進められている。今回、実験動物中央研究所の佐々木えりかと日本および米国の研究者らは、2種類の遺伝子編集技術(ZFNおよびTALEN)を使って、史上初となるX-SCIDの非ヒト霊長類モデルの作製に成功した。

佐々木のチームは、マーモセットを試験対象とした。マーモセットは体が小さく、扱いやすいため、非臨床試験において新薬を小量で試験するのに最適である。同チームはIL2-RG遺伝子をターゲットとしたZFNの候補16ペアを培養細胞に導入しIL2-RG遺伝子のノックアウト効率を調べた。続いてもっとも遺伝子改変効率の高かったZFNおよびTALENをマーモセットの初期胚に注入後、モザイク現象(モデルの生体の中の細胞すべてが均一な同一の変異遺伝子を持つかどうか)を調べ、回避するスクリーニング検査を確立した。

その後、研究者らはZFNおよびTALENを注入した胚をマーモセットの代理母に移植した。その結果、ZFN群およびTALEN群でそれぞれ5頭および4頭の仔が誕生した。これらのうち3頭が成体まで生存し、史上初となるX-SCIDの非ヒト霊長類モデルとなった。

さらなる試験により、IL2-RGノックアウトマーモセットモデルは、X-SCID患者と強く類似する表現型を示すことが示された。佐々木のチームは、その研究が遺伝子疾患を含む特定疾患の複数遺伝子ノックアウトモデル作製への道を開くことを確信している。

Reference and affiliations

K. Sato1, R. Oiwa1, W. Kumita1, R. Henry2, T. Sakuma3, R. Ito1, R. Nozu1 , T. Inoue1, I. Katano1, K. Sato4, N. Okahara1, J. Okahara1, Y. Shimizu1 , M. Yamamoto1 , K. Hanazawa5, T. Kawakami6, Y. Kametani7, R. Suzuki8, T. Takahashi1, E. J. Weinstein2, T. Yamamoto3, Y. Sakakibara4, S. Habu9, J. Hata1, H. Okano10*, & E. Sasaki1,11,* Generation of a nonhuman primate model of severe combined immunodeficiency using highly efficient genome editing. Cell Stem Cell 19 127-138 (2016)

  • 1. Central Institute for Experimental Animals, Kawasaki, Kanagawa 210-0821, Japan
  • 2. Horizon Discovery, Saint Louis, MO 63146, USA
  • 3. Department of Mathematical and Life Sciences, Graduate School of Science, Hiroshima University, Hiroshima 739-8526, Japan
  • 4. Department of Biosciences and Informatics, Keio University, Yokohama, Kanagawa 223-8522, Japan
  • 5. Department of Oncology, Juntendo University Nerima Hospital, Nerima-ku, Tokyo 177-8521, Japan
  • 6. Medical Proteo Scope Company, Ltd., Yokohama, Kanagawa 236-0004, Japan
  • 7. Department of Molecular Life Science, Division of Basic Medical Science and Molecular Medicine, Tokai University School of Medicine, Isehara, Kanagawa 259-1193, Japan
  • 8. Department of Rheumatology and Clinical Immunology, Clinical Research Center for Rheumatology and Allergy, Sagamihara National Hospital, Sagamihara, Kanagawa 252-0392, Japan
  • 9. Atopy Research Center, Juntendo University Graduate School of Medicine, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8421, Japan
  • 10. Department of Physiology, Keio University School of Medicine, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan
  • 11. Advanced Research Center, Keio University, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan
  • *Correspondence: hidokano@a2.keio.jp (H.O.), esasaki@ciea.or.jp (E.S.)
  • DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.06.003

Figure:

日本および米国の研究者らは、最先端の遺伝子編集技術を用いて、史上初となるX-SCIDの非ヒト霊長類モデルの作製に成功した。