リサーチハイライト
Vol.14, February 2019
サルの脳機能をマッピング
新技術で自由行動中の霊長類の脳神経活動パターンを可視化
非ヒト霊長類は、ヒトに類似した社会および認知行動を有する。そのため、非ヒト霊長類の脳を研究することは、ヒト行動の研究に有用である。慶應義塾大学の近藤崇弘、岡野栄之らは、新しい手法を用いて、自由行動中のマーモセット脳神経活動の可視化に世界で初めて成功した。
これまで非ヒト霊長類の脳神経活動のイメージングは、動物の頭部を装置に固定し、行動を制限して行われてきた。そのため、自由行動中の認知行動を解明することは不可能であった。今回、近藤らのチームは、マーモセット脳に小型レンズを埋植し、頭部を固定することなく神経活動を可視化する方法を開発した。小型レンズは、随意運動の計画と実行を司る大脳皮質運動野に埋植された。
大脳皮質運動野の詳細なマッピングに続き、蛍光カルシウムインジケーターが導入された。神経細胞の発火に伴いカルシウムの流出入が生じると、蛍光カルシウムインジケーターが蛍光を発する。続いて、光信号を検知するためのプリズム型レンズが埋植された。その結果、運動野の80~250個の神経細胞を同時に記録することができた。
マーモセットが異なる随意運動をするときに、この手法で運動野の神経細胞活動が計測されるか検証したところ、レバーを引く課題を行う際と、樹上生活性であるマーモセットがはしごを登っているときの神経細胞活動が計測データで確認された。休止中には、別の神経細胞がポジティブなカルシウム信号を示したのに対し、運動野では活動が何ら認められなかった。続いて、方向性のある随意運動について調べるため、周期的にマーモセットの右前方または左前方にペレット(餌)を置いた。その結果、ペレットに手を伸ばす前、実際に手を伸ばす際、およびペレットをつかみ取る際に異なる神経細胞が活動することが明らかになった。
今回の研究で近藤らは、自然な方向性のある随意運動中に、異なる神経細胞が活動することを明らかにした。今回のイメージング法は、脳卒中など、脳の小さな領域に影響を及ぼす神経疾患の解明にも資するであろう。「本技術によって、自由行動下でのヒトに類似する行動に伴う大規模な神経ネットワークの分析が可能となり、社会的交流、恐怖や不安などの複雑な行動や認知運動課題の研究が可能になるであろう」と近藤らは結論している。
Reference:
Kondo, T. et al. Calcium Transient Dynamics of Neural Ensembles in the Primary Motor Cortex of Naturally Behaving Monkeys. Cell Reports 24, 2191-2195 (2018).
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2018.07.057
Figure:
図1. マーモセットが行った課題:はしごを登る(左)、レバーを引く(中)、ペレットを取る(右)