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ビデオ特集

Vol.10, September 2017

山口葉子氏

株式会社ナノエッグ
代表取締役社長 兼 研究開発本部長 理学博士
聖マリアンナ医科大学 客員教授

研究の背景

 私はもと物理学者で、ディスプレイなどの液晶の研究をしていました。ディスプレイが出来上がり、することがなくなり、「何をするか?」というときに、物理学者のターゲットは宇宙か生体かとおよそ決まっていて、

「宇宙飛行士はハードル高い。では生体かな」

と思い聖マリアンナに行った、という背景です。

ドラッグデリバリーシステム

 皮膚から薬を入れるということもデリバリーです。ドラッグをどこからデリバリーする? 血管?それともどこ?  ー 私の答えは『皮膚から入れる』研究でした。ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System, DDS)を確立して、皮膚から入れるための技術としてナノテクノロジーを駆使して開発したナノカプセルと、皮膚に入れるためのジェル剤、いわゆる外用基材を開発したということがベースとなっています。

細胞間脂質

 普通にお風呂に入りプールに入っても、水(H2O)という非常に小さな分子でさえ皮膚から入らないということからわかるように、皮膚は高いバリア機能をもっています。つまり、モノを通さない機能を持っているのです。

 皮膚の大きな特徴は、他の臓器に比べて非常に面積が広いということです。ですから、皮膚の広い面積を活用をすることは効率がいい、という意味で非常に良い方法だと考えます。

 では皮膚から薬を入れるにはどうしたらいいのか? 皮膚の本来もつべき機能をよく考えてみるのが一番大事です。皮膚の持ってるバリア機能は、なぜ担えていられるのか? 皮膚にはいわゆる角質細胞という死んだ細胞、一般にいうと垢の積み重ねの部分があります。積み重なっているだけでは色々なモノがすり抜けてしまいますので、角質細胞同士を接着するための脂質があります。これを『細胞間脂質』といいます。これがあるおかげで簡単には物が通らないのです。逆に、この脂質をターゲットにモノを入れたらよく入るのではないか、と考えたわけです。では、脂質に入れるためにはどうしたら良いか? ここで、モノを通すための通り道を作る、という方法を考え付きました。その通り道を作る一つの方法として、ちょっと隙のある構造にすることで、何かが入る余地ができるだろう、と考えたのが私たちが開発した外用基材というものです。

ナノカプセルのデザイン

 ナノカプセルには当時、皮膚からモノを入れるにはナノっていうサイズにすれば通るのでは?という概念があったのですが、そんな簡単ではありません。水分子という極めて小さいものさえ通らないわけですから。

 そこで、細胞間脂質に非常に類似の構造、類似な性質、いわゆる物理化学的な性質をカプセル表面に持たせることで、極端なことを言うとのせただけでも親和力でみるみるうちに入って行くんじゃないかと考えて、ナノカプセルの表面構造を細胞間脂質の類似の構造に設計しました。

 それによって、置いただけでスッと入る、なじむ、という構造になった、というのが私たちのカプセルの特徴です。つまり、「塗れば入りますよ」というカプセルにしたということなのです。ナノカプセルと外用基材を両方使うのが、もっともよく入る方法だと、我々は提唱しています。

研究テーマ

 もっと画期的で革新的な、自分しかできないようなものを作るためにどうしたらいいかを考えた時、大事なことは今までの概念にはないナノカプセルの設計をすることだ、と考えました。問題点は、カプセルを塗る時に「塗る」という行為だけでカプセルが壊れることだろうと思いました。壊れないようにするにはどうしたら良いか?壊れないようにすればするほど生体の中で壊れなくなってしまい、意味がなくなってしまう。そのバランスを取るのが非常に高いハードルでした。

 もう一つの問題点は、どんな薬剤でもカプセルにできるのか?ということ。残念ながら今のところできていません。ではそれを補うためにどうするか? 前述した外用基材にどんな薬剤も混ぜることができる、要は包摂できる外用基材を作ることです。これも一つのハードルでしたが、私は幸いに液晶という学問を知っていたので、私たちの外用基材は、液晶をベースになかなかのものができました。

私たちのプロダクト(製品)

 皮膚研究から医療のブレークスルーを、というのがキャッチフレーズです。薬を作るというのは一つの目標ではありますが、その目標を達成するのに十年以上かかります。その間どうやって会社を経営して社員の皆さんに給料を払うか?やはり収入源をつくる必要があります。でも私たちは、医療のブレークスルーをするぐらいの皮膚研究してるわけですから、その皮膚の研究をどこに、すぐに反映させるか、実用化するか? その答えが化粧品だったのです。スキンケアをターゲットにすることで、われわれの研究の成果を伝えることができると思い、効果のある化粧品をつくる開発をしました。やはり医療がベースにありますので、非常に効果的なものを作ることができて、現在も開発・販売をしています。

医療への応用

 私たちのできる医薬品ってなんだろう、と考えたときに、経皮吸収、つまり皮膚から薬をいれるというものがあります。皮膚から薬を入れてうれしいことってなんですか?と考えたとき、一つの答えは私はワクチンだと思っています。

 現在のワクチンはほとんど注射ですよね。これで一番困るのは発展途上国の子どもたちだと思っています。この子供たちは、針を使わなきゃいけないために、医師や医療従事者、看護師さんでないと、注射を打ってあげることができない。環境も悪いから衛生問題もある。針を使わない、貼るだけ塗るだけのものを作れれば、自分で貼ればよくなります。これを作ることで世界中の子供が死なずにすむ、世界の子供を救いたい、とたいそうなこと言っていますけど、そういうきっかけになる開発ができたら、私はライフワークとして良いなと思っています。

 もう一つは、私たちが皮膚研究をすると、色々な皮膚疾患に出会います。例えば、皆さんよく知ってる皮膚疾患にアトピー性皮膚炎があります。アトピーってそもそもなぜなるの?という回答をご存じの方って、医師も含めて誰もいないんですよ。なぜなるのかわからないから治療薬を作れないのが本当の話で、対症療法としてかゆみをとめるしかない。本来、医薬品を開発する研究者を目指すべきは根治治療だと私は思うので、弊社は一丸となってアトピーの根治治療の開発の研究をずっと続けてきています。

キングスカイフロントに居る利点

 最近は、海外からいろんな問い合わせや引き合いが化粧品でさえも非常に多くなっています。国際的にわれわれのスキンケアを広げていく必要が出てきている、と年々感じています。医薬品に関しても、われわれの技術を全世界に広めるべきだと思っています。この観点から、キングスカイフロントにいることは非常に有利だろうと考えてここに引っ越してきたのは非常に大きな利点の一つだと考えています。