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ビデオ特集

Vol.1, August 2014

岡野栄之氏

慶應義塾大学医学部生理学教室 教授 医学博士

われわれの研究対象は中枢神経系、すなわち脳と脊髄である。とりわけ10年以上にわたり、実験動物中央研究所(CIEA)と共同で、マーモセットという小型霊長類を使ったさまざまな疾患モデルの作製に取り組んでいる。

2005年には、世界初となるマーモセット脊髄損傷モデルの作製に成功し、日本、米国をはじめ複数の国で特許を取得している。実際に、われわれの研究や知的財産を基に、製薬企業が臨床試験を進めている。さらに同年には、同脊髄損傷モデルへの神経幹細胞の移植による運動機能の回復に成功した。

最近では、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞の移植による運動機能の回復に成功した。また、2009年には、世界で初めて霊長類の遺伝子改変動物(トランスジェニックマーモセット)を作出した。これを受けて、パーキンソン病およびアルツハイマー病の動物モデル作製が可能となった。本系統を使った両疾患の発症機序解明と治療薬開発が進められている。

動物モデルの作製にマーモセットを使用する理由として、この小型霊長類はヒトに近いことが挙げられる。マーモセットモデルで奏功する治療を開発することが、ヒトの疾患治療につながる可能性が高い。

研究の成果とハイライト

動物を使った実験により、薬物の投与によってパーキンソン病の急性発症が誘発されることが示されている。しかし、実際には、パーキンソン病は非常にゆっくりと進行する。われわれの研究では、パーキンソン病原因遺伝子を受精卵に導入し、同疾患を強制的に発現させる。このような方法で正確な動物モデルを作製することにより、運動症状の発現前に見られる異常を想定および理解することができ、パーキンソン病の発症を示す初発症状の予測へとつながる。

われわれの研究がパーキンソン病の発症を遅らせる薬剤の開発へとつながることを期待しつつ、引き続き治療法の開発に向けた霊長類モデルの作製に取り組む所存である。

キングスカイフロントにおける研究

アルツハイマー病のモデル動物は、川崎市の殿町国際戦略拠点、キングスカイフロントで作製および飼育されている。今後、世界トップレベルの研究者がキングスカイフロントに集い、ここで誕生した動物モデルを使った実験が行われることを期待する。キングスカイフロントは東京国際空港(羽田空港)に近接している。キングスカイフロントが、ライフサイエンス研究、医療診断、そして患者治療の国際的な一大拠点となることを願っている。

未来に向けて

脳の機能と構造のマッピングは、今後の重要な研究領域である。米国では、オバマ政権がBRAIN (Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies) Initiativeを発表した。一方、日本では、ヒトと非常に近い関係にあるサルを使った脳の解明を目指している。間もなく立ち上げられる「BRAIN Initiative Japan」プロジェクトにおいて、キングスカイフロントは中心的な役割を担うことになる。

キングスカイフロントは、学際的なアプローチによる画期的な最先端医療研究の最前線にある。実験動物中央研究所(CIEA)、東京大学が中心となっている(仮称)ものづくりナノ医療イノベーションセンター(iCoN)、国立医薬品食品衛生研究所などがキングスカイフロントに集まってきた。間もなく日本アイソトープ協会(JRIA)も進出する予定であり、実現すればイメージング技術の利用が可能になる。さらに、最先端医療機関が加われば、基礎研究から臨床応用まで一連の研究開発がキングスカイフロントで展開されることになる。

国内はもとより海外からのスピーディなアクセスを実現する羽田空港との近接性を生かして、キングスカイフロントは、ライフサイエンス研究、人材研修や患者治療の国際拠点へと発展するだろう。