本研究報告は、国際ハブ空港化が進む羽田空港の対岸(川崎市川崎区殿町地区)に位置する、ライフサイエンス・環境分野のオープンイノベーション拠点キング スカイフロント(Kawasaki INnovation Gateway at SKYFRONT)での研究内容等を紹介するWEBニュースレター「Kawasaki SkyFront i-Newsletter」2015年3月発行・第3号に掲載されています。
2015年3月発行、Kawasaki SkyFront i-Newsletter VOL.3:http://www.tonomachi-ksf.kawasaki-net.ne.jp
研究報告詳細
薬剤搭載ナノマシンのコア構造
近年、標的とする身体部位に薬剤を安全かつ確実に送達する、薬剤を内包した小さなナノマシンが報道で取り上げられるようになった。たとえば、膵臓がんを対象としたナノマシンの臨床試験は複数の国で第III相に入っている。ナノマシン自体は、自己組織化する高分子(ミセル)であり、その中心を成すのは薬剤を内包するコア(核)である。ミセルは体内での移動中に周囲の影響を受けやすいため、頑丈な構造を作ることが不可欠となる。
東京大学の片岡一則教授らは、国内およびスイスの科学者らと共同で、ミセルコアおよびマウス体内でミセルが効果的に薬剤を送達する能力に内部コア構造が及ぼす影響について検討した。
過去に設計された一部のミセルには、体内での溶解が早すぎるため、標的とする腫瘍に高濃度の薬剤が届かず、他の臓器に分散してしまうという欠点があった。今回、研究者らは、PEG-b-P(Glu)と呼ばれる高分子材料から、光学活性の異なる3種類のミセルを作製した。そのうち2種類のミセルでは、シスプラチン(抗がん剤)と組み合わせた場合、高秩序の規則的なコア構造が形成された。一方、3番目のミセルは、よりランダムなコア構造とした。
その結果、コアに規則的な構造(α-ヘリックス)を有する光学活性なミセルは、長時間にわたりその構造を保持し、溶解リスクが低いことが明らかになった。また、高秩序のコアは、標的への到着後、薬剤の放出を制御するのに有用であった。対照的に、ランダムなコア構造を有するミセルは、マウスの血流中で急速に崩壊した。
同研究チームは、ミセルのコアを目的に合わせて慎重に作製すると同時に、保護外殻を入念に設計することで、ナノマシンの効率向上を図れるとしている。
Publication: Nat. Commun. 5, 3545 (2014)
Takahiro Nomoto1, Shigeto Fukushima2, Michiaki Kumagai2, Kaori Machitani2, Arnida2, Yu Matsumoto3, Makoto Oba4, Kanjiro Miyata3, Kensuke Osada1,5, Nobuhiro Nishiyama6 & Kazunori Kataoka1,2,3
Affiliations:
- Department of Bioengineering, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan.
- Department of Materials Engineering, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan.
- Center for Disease Biology and Integrative Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan.
- Graduate School of Biomedical Sciences, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki 852-8521, Japan.
- Precursory Research for Embryonic Science and Technology (PRESTO), Japan Science and Technology Agency (JST), 4-1-8 Honcho, Kawaguchi, Saitama 332-0012, Japan.
- Polymer Chemistry Division, Chemical Resources Laboratory, Tokyo Institute of Technology, R1-11, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan