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リサーチハイライト

Vol.2, December 2014

ナノサイズのドラッグキャリアを使ったマウス膵臓がんの標的療法

ナノマシンは、体内にある疾患の源へと薬剤を直接送達するナノサイズのドラッグキャリアである。移植腫瘍モデルを対象とした試験において、より効果の高い薬剤を搭載したナノマシンが非常に有望であることが示されている。ただしこれらの試験は、生体内における癌性腫瘍の増殖、発生、および微環境を正確に示すものではない。

今回、東京大学の片岡一則教授らは、日本各地の科学者と共同で、膵臓がんを発症した遺伝子改変マウスに対し、薬剤搭載ナノマシンを投与した。

同試験で使用されたナノマシンは、親水性の外殻と、薬剤を安全に運ぶ疎水性の薬物封入内核で構成される金属錯体形成型の高分子ミセルである。ミセルには標的薬物療法に向けた大きな利点がある。すなわち、小さいサイズで安定していること、特定の細胞に蓄積すること、ならびにかなり長時間にわたり完全な状態で血流中に留まることである。

研究者らは、DACHPtと呼ばれる新しい抗がん剤をミセルに封入した。DACHPtは、複数の難治がん(トリプルネガティブ乳がんなど)に効果があり、患者への副作用も少ない。作成された高分子ミセルから内包DACHPtの放出が始まるまでには8時間の誘導期がある。そのため、薬剤は血中では放出されずに、高分子ミセルによって腫瘍に運ばれ、その後、腫瘍内部で選択的に放出が引き起こされる結果、正常組織への非特異分布を避けて効果的な標的治療を行う事が可能になる。

片岡教授らのチームが、膵臓がんを発症する遺伝子改変マウスを対象にDACHPt内包ミセルを投与したところ、標的である原発腫瘍においてミセルの顕著な集積が確認され、腫瘍の増殖が抑えられると同時に、転移(がんが体中に広がること)のレベルが低下した。その結果、マウスの生存期間は著しく延長され、副作用もほとんど見られなかった。同チームは、この様なミセル型ナノマシンは長期にわたる化学療法に有望であると確信している。

片岡教授らのチームは、引き続きDACHPt搭載ナノマシンの長期使用に関する研究を進めている。

Reference and affiliations

Horacio Cabrala, Mami Murakamia, Hironori Hojob, Yasuko Teradac, Mitsunobu R. Kanod, Ung-il Chunga,b, Nobuhiro Nishiyama,e,* and Kazunori Kataokaa,b,f,* Targeted therapy of spontaneous murine pancreatic tumors by polymeric micelles prolongs survival and prevents peritoneal metastasis. PNAS June 2013 doi: 10.1073/pnas.1301348110

  • a. Bioengineering and f. Materials Engineering, Graduate School of Engineering, University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan
  • b. Center for Disease Biology and Integrative Medicine, Graduate School of Medicine, University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan;
  • c. SPring 8, Japan Synchrotron Radiation Research Institute, Sayo-cho, Sayo-gun, Hyogo 679-5198, Japan;
  • d. Department of Pharmaceutical Biomedicine, Graduate School of Medicine, Dentistry, and Pharmaceutical Sciences, Okayama University, Kita-ku, Okayama 700-8530, Japan;
  • e. Polymer Chemistry Division, Chemical Resources Laboratory, Tokyo Institute of Technology, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan

*corresponding authors, e-mail address:kataoka@bmw.t.u-tokyo.ac.jpor
nishiyama@res.titech.ac.jp

Figure:

日本の科学者らは、マウス膵臓がんを標的とする新しい薬剤搭載ナノマシンの試験を実施した。使用された薬剤はDACHPtである。腫瘍を標的とするナノマシンに搭載した場合、DACHPtは長期的に安全な化学療法薬剤として有望であることが示された。