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Vol.19,November 2020

岩宮貴紘氏 野上健一氏

株式会社メトセラ 代表取締役

心不全治療に、革命を起こす
心不全患者向けの新しい細胞医薬品を開発

設立の背景と目的

 メトセラは、心不全患者向けの新しい再生医療等製品を開発しているベンチャー企業です。
心不全という病気は、一度罹患すると心臓の症状がどんどん悪くなっていき、現行の医療ではなかなか直せません。そこで我々は特殊な細胞を用いて心不全患者さんを治すことを目標としています。

 特殊な細胞を用いますが、これは2010−2014年、私が東京女子医科大学に在学していた時に発見した特殊な心臓の線維芽細胞がもとになっています。この細胞は、心筋の保護・増殖を担うだけでなく、心臓のリンパ管を発達させます。これによって、一度心不全で低下した心臓の収縮力を改善させることができます。

 私は大学の研究者として、この細胞を心不全の患者に向けて提供することを当初考ましたが、当時は若手研究者で、いかに巨額な研究費を獲得するのかが非常に大きな壁となっていました。日本においては若手研究者が細胞医薬品を開発するだけの巨額な助成金を獲得するのが難しい、という背景があり、メトセラを起業して、助成金ではなく投資家から資金を調達することで、心不全の患者様に向けた開発ができないか、とメトセラを創業致しました。

 2014年に二人は出会っており、その2014年の冒頭の頃からどのように企業化していくかを検討して、約2年準備をして会社の設立に至りました。この2年の間に、色々な投資家の方にお話を聞いたり、助成金も申請をして、最終的には会社の設立前に7千万円の助成金を頂きました。加えて投資家さんにも入って頂き、最もリスクを取りやすい準備が整った形で会社としてスタートできたのが2016年の3月です。
 その時にちょうど、ライフイノベーションセンター含むキングスカイフロントの開発が行われており、神奈川県さんからご紹介頂き、会社設立と同時に入居を決めて入居させて頂きました。このようにしてキングスカイフロントで会社を創業したという経緯です。

事業・研究の特徴

まず、我々が開発しているVCFを確実に心不全患者さんに届けられるようにする、臨床試験をパスする、ということが大事だと思います。次に、心不全という病気は現状では治らない病気ですが、このVCFを一般医療化して様々な患者さんに「さも当たり前の医療」として提供していきたい、という夢があります。

 メトセラ自体についての話ですが、従来は、アカデミアはサイエンスを突き詰める、一方で企業はビジネスを突き詰める、製品の経済整合性を求める、と、この2つは離れた存在でした。メトセラは、もちろん企業ですが、サイエンスをしっかり確立した研究開発のベンチャーとして、両方を兼ね備えたハイブリッドな存在の企業として発展させていきたい、と思っております。

 ビジョンとして一番大きなターニングポイントになるのが、治験を開始できるかというところです。これまでのバイオベンチャーで、アカデミアからのライセンスインなしで、自分の会社の特許だけで治験に入るということはなかなかなかったことだと思います。メトセラという会社は、基礎研究のところを非常に手厚くしていて、治験を開始するに足りるサイエンティフィックなエビデンスをしっかりと積み上げてきているからこそ、治験を自社の研究開発だけでしっかり開始できるところまで来られたのかな、というところに非常に大きなビジョンが現れていると考えています。

 もう一つは、事業としてどのようにしっかりと差別化していくかというところ、つまりコアコンピタンスの部分で、大きく四つの柱を今後事業として立ち上げていく必要があるだろうと考えています。
一つは、VCFという技術そのものについて、その科学的なバックグラウンドとなる裏付けをしっかりと取るということ。なぜこれが効いているのか、ということを世の中の皆さん、製薬会社の皆さん、患者さんに理解頂くということ。
 二つ目は、メトセラが今挑んでいるのは、『じか(直)』の再生医療です。つまり、患者さんに患者さん本人の細胞を使って投与する。これまでの再生医療の中で『じか(直)の再生治療』というのは、コスト面や、患者さんごとの細胞の違いという点で難しいのではないかと思う方もいらっしゃったと思います。メトセラはまさに、その大きな課題に、科学の観点と事業性の観点からチャレンジをしている会社なのです。近い将来、じか(直)の再生医療は実は非常に魅力的な再生医療の手段であり、これをしっかり準備を進めているメトセラという会社はとても魅力がある、ということを分かっていただけるように、今、事業を進めています。
 三つ目は、カテーテルを使う投与にチャレンジしている会社であることです。心臓というのは動いている臓器なので、これまでは細胞をしっかりと投与するということはなかなか難しかったのです。多くの場合は開胸手術をして細胞を投与するということをせざるを得なかった中で、メトセラは日本ライフラインさんという会社さんと非常に強いパートナーシップを結んで、筑波大学さんも一緒に、新しいカテーテルを開発する、ということにも取り組んできました。その意味で、メトセラは、ただ細胞を開発している会社ではなく、それをどのように投与するのかという総合的なところも含めた開発をしている会社なのです。このカテーテルをどのように実際の臨床に届けるか、ということが三つ目のチャレンジです。
 最後に、どれだけ正確に細胞を投与できるかというのがチャレンジとして残っています。私たちのパートナーシップを通じて、心臓を非常に正確にリアルタイムに見ることが出来る、心不全が起こっている場所にピンポイントに細胞を投与する、ということが実現可能になっています。世界的に見てもこれを実現できている会社は少なく、我々と日本ライフラインさんのパートナーシップだからこそできることであり、細胞とその応用、そしてそれによってもたらされる非常にユニークな細胞治療は、これからのメトセラを支える非常に大きな強みになるだろうと考えています。
 この実現のために、メトセラは今、アメリカに子会社を作って海外展開進めようとしています。キングスカイフロントの皆さんのお力もお借りしながら、しっかりと、日本そして海外、というグローバル戦略を進めていきたいと考えています。

課題

技術に関しては、我々は、心不全に対して高い角度で薬効を示していく、ということは示せましたが、それが低コストで製造できるかどうかということは別次元の問題があります。再生医療は、一般的に、高額になってしまいます。我々の製品は、線維芽細胞をいう原料を使っているものの、生きた細胞を培養して患者さん届けるという工程を踏んでいますので、どうしても高価格になってしまいます。これを克服するために、培養工程を自動化したり、添加するタンパク質などの原料を精査して低コストにしてあげる、ということが挙げられます。あとはきちんと薬効を示したものは9月にPLOS ONEに報告しましたが、それ以外にもまだ提出していないサイエンスのデータもございます。これらをしっかりしたサイエンティフィックなストーリーとしてまとめあげて、high impact journal 等いろいろな論文、特許等に報告していく。また、学会でも成果を報告する、ということが大事だと考えています。

 メトセラとして今一番欲しい物はやっぱり人材です。研究開発を進めるにあたっても、どれだけ自分で道筋を見出してしっかりと解決まで持っていけるのかということは、事業者のみならず研究開発で、そして自由度が広い基礎研究でこそ必要なのだと考えています。
 すでにメトセラには色々な国籍の方に既に参加して頂いていて、グローバル展開も含めて、非常に優秀な研究者の方とプロセス開発部分、臨床に向けてどのような患者さんに薬を投与していくのかといった様々な観点で開発を進めなければなりません。ここに優秀な方をグローバルに採用させて頂きたいというのは重要なテーマです。

 もう一つは、 ガバナンスです。ガバナンスというのはすごく難しくて、特に基礎研究からスタートしている会社は、スピード優先するとガバナンスは犠牲にしなければならないケースも出てきます。しかしながら、データの信頼性、薬事 FDA、PMDに提出するデータとしての信頼性というのは担保しなければなりません。会社そのものとしてのガバナンスも高めていかなければならない。メトセラは、今、大きなステージの変化に差し掛かっていて、スタートアップという存在から、より信頼される社会の公器として、患者さんに「この細胞は大丈夫です。安全です。安心して下さい」と言えるだけのデータとガバナンスを社内に整えるという事は、極めて大事だと思っています。この点は、今後3年間のテーマとして取り組んでいきたいと思っています。

研究を始めたきっかけ

再生医療は、いろいろな臓器疾患に対する新しい治療方法を提供する、という学問です。心臓は顕微鏡で見た時、自立拍動して動くので、可愛いなあというのが第一印象です(笑)。心不全という病気は、心疾患を含めた全体の話なのですが、それは世界で死因第一位です。かつ心臓の筋肉の細胞は、生まれた後、細胞分裂しない細胞なので、一度心不全になってしまうと治療方法はありません。これを再生医療としてしっかり治せるということは、社会的な意義も大きいですし、何といっても患者さんの命を救えます。また死因第一の心不全を治せるということは、非常に高額な医療費がかかっていることから社会的な医療費を軽減する、という意味でも貢献ができると思い研究開発をしました。

 研究開発をしている中で、一番最初にわかったことは、私たちの開発している細胞は心臓の筋肉も細胞分裂させる、ということです。心臓の筋肉の細胞は、先ほど申し上げたとおり、生まれたあと細胞分裂しない細胞です。その細胞分裂しない細胞を、細胞分裂させてあげることができる、ということは、つまるところ、一度傷をおった心臓、心不全の梗塞層という部分を再生できるのではないか、と考えて研究開発を行ない、心不全向けの医薬品の開発に着手しました。

 心臓の線維芽細胞は、心臓の線維症という病気がありますが、その発症の元になっている細胞と言われてきました。心臓線維芽細胞は、一般的な科学的なイメージは悪者・癌細胞のような扱いになってしまいます。しかし、我々が発見したのは、心臓線維芽細胞には色々な種類があって、線維症を引き起こすような悪い細胞もあるが、私たちが見つけたVCAM-1-positive心臓線維芽細胞という特殊な線維芽細胞は、心臓のホメオスタシス・恒常性を維持することにおいて非常に重要な機能である、ということが分かりました。この着眼点は、ずっと見落とされてきたもの、深く見ていけば実はいい機能があった、というユニークで、なによりも面白い点だと思います。

二人はどのように出会ったか

始まりは、助成金だけでは(岩宮氏が)研究開発を十分にできていなかったことで、特に2014年、当時一番しなければいけなかった治験は、vivoの治験でした。実際にラットに投与して効果が出るかどうか。その治験は、当時の科研費の中では最もギャップが大きく、もう少し外部からお金を入れないと本格的にやるのは難しいものでした。
 (岩宮氏が) 中学高校の同級生にどのようにすべきかを相談している中、私の名前を挙げてくれました。当時私は、投資銀行という大きな会社の資金調達や会社の買収のアドバイスをする会社で既に6年半勤務していました。いい人がいる、ということで話をして、技術としては面白いし大きくしっかりと実験をすれば面白い結果が出るかもしれない、ということを二人で話し合い、一緒に行ってみよう、ということになり始まりました。これも結局は人と人の出会いが積み重なってのスタートです。

キングスカイフロントに期待すること

キングスカイフロントに入居させて頂いたのは2016年の頭です。今では、信じられないぐらい場所の魅力度が上がっています。最初はなかなか人と出会うこともない、そもそも入居している人も少なく、お昼を食べることも大変だとか駅からも遠いなど色々な問題がありましたが、今は全く変わり、シャトルバスも出るようになりましたし、もうすぐ羽田空港に繋がるなど、 地理的な魅力度がものすごく上がっています。だからこそ、ここから始まったスタートアップとしてすごく期待していることは、もっと色々なスタートアップです。つまりゼロの最初からここにいる必要はないと思いますが、だいぶ開発が進んだ、もう上場が見えている、もしくはもう上場している、という様々なステージのスタートアップに是非来て頂きたいな、と思います。その(スタートアップ)コミュニティがあるからこそ、実用的なところでは実験機器を貸してね、というコミュニティがるかもしれないし、ある一人の人が経験してきた苦労から学べることもあるかもしれない。色々なシナジーが出てくると思います。投資家を紹介しあう、ということもあるでしょうし、このキングスカイフロントから調達をしていく、ということもできると思います。ぜひスタートアップが来られるような場所とエコシステム、いろいろな助成金のシステム等を総合的にご支援頂き、このキングスカイフロントをバイオスタートアップのメッカにして頂きたいと願っています。

 特許を書いたり、論文を書いたり、サイエンスを発展させるためには、交流と集中する場所が必要だと思います。従って、例えば、カフェなどの集中できる環境があれば、キングスカイフロントで我々だけでなく、色々な事業会社さんのサイエンスが発展して、キングスカイフロント全体を発展させることにつながるのではないかと考えております。
 これだけおしゃれで、ホテルも公園もあり緑と川とサイエンスが融合した場所では様々なインスピレーションを得られるということ。そして科学者が一人になって考える、時にはその辺を歩いている知り合いの科学者にちょっと相談してみる、と色々な形で繋がりを持てつつもしっかりとリラックスをしながら集中できるスペースを用意してあげるということ。サイエンスをこのキングスカイフロントから発展させていく上で、ここは有意義な場所になるだろうと二人でよく話しています。

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