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Vol.4,June 2015

岡部信彦氏

川崎市健康安全研究所 所長 医学博士

プロフィール

 私は小児科で、その中の専門の分野として感染症、予防医学を行ってきました。大学病院等での臨床経験に加えて、マニラにあるWHO西太平洋地域事務局(WHO Western Pacific Regional Office)で感染症の地域アドバイザーとして3年半務めました。その時に国際公衆衛生というものに刺激を受けて勉強をし、その経験を積んで日本に戻りました。

 その後母校の大学病院で小児科に戻った後国立感染研究所に勤務、感染症情報センターのセンター長に就き、12年を過ごしました。このセンターでの主な仕事は、国として感染症の情報の収集、分析、そしてフィードバックを行い、保健行政、臨床面での感染症対策に資するようにするものです。

 また、例えば新型インフルエンザ対策や、SARSが勃発した時やエボラ出血熱が出た時、そのような新興・再興感染症に対してリスク分析を行いどのように対応、対策をとるかということを行ってきました。

 退職後、それらを現場に近い地域社会で実践することに興味をもち川崎市健康安全研究所に着任しました。

川崎市健康安全研究所

 私たちの名称は「川崎市健康安全研究所」ですが、全国の都道府県及び政令指定都市等に『衛生研究所』という名称の、公衆衛生に関する調査研究を行う研究所があります。共通する部分は、公衆衛生の問題を扱う『Public Health Institute』であるという考え方です。

3つの主要部門 ①理化学部門

 大きく3つのミッションがあります。一つめには日常の仕事としての理化学部門。例えば食品に食中毒の原因になるような物質が含まれていないか、放射能がどのくらいのレベルで含まれているか、あるいは、飲み水が十分に安全基準を満たしているかどうか、という調査などをします。

3つの主要部門 ②微生物部門

 二つめが微生物部門。食中毒が出た時に何が原因菌であるかを調べたりします。2014年に都内を中心に国内で感染を受けたデング熱が広がりましたが、そのような際には患者さんの検査を行います。デング熱を媒介する蚊の調査はすでに10数年行っています。

 日本では現在、国内のはしかはほぼ排除 ( eliminatrion) された、とWHOが宣言をしています。この研究所では、はしかの疑いの患者さんがはしかのウイルスを持っているかいないか、またウイルスを持っているとすればどんな遺伝子タイプのウイルスなのかなどの検査をしています。あるいは結核やHIVの検査なども行っています。

3つの主要部門 ③情報収集・分析・還元部門

 三つめは、感染症情報センターという部門です。川崎市内で発生した感染症について、最前線で診療している医師からその感染症に関する情報を送ってもらい、これを分析して医療機関や保健行政機関に情報のフィードバックを行います。このデータは定期的に「川崎市内における感染症情報」として発信していますが、これはメディアの方、一般の方でもホームページなどで状況を知ることができます。

研究所としての川崎市健康安全研究所

 やはり研究所ですから、日常の検査業務だけではなく、「公衆衛生に資する」をキーワードとする様々な研究に取り組んでいますが、日々の公衆衛生対応を行ったうえで、先進的な研究にも取り組むという基本姿勢です。

 科学は常に工夫と新しさが必要で、日常業務に加えて研究的なことをする必要性を理解しないと、単なる検査だけを行う機関となってしまいます。科学的な発展、エビデンスを求めるというキーワードはそこにあると思っています。

キング スカイフロントの特徴・川崎市内企業との連携

 キング スカイフロントは様々な研究機関が周辺にあり、身近な研究所間の連携、情報の交換を通じてお互いに刺激しあうことができる、という特徴があります。川崎市の地元企業と、公衆衛生に資する研究や新しい可能性を探す、という大きなミッションもあります。

DNAチップ開発・製品化への道のり

 食中毒の原因は、そもそも原因となる細菌やウイルスなどの微生物がいるのかどうか、またその種類や原因を特定しないと対策も取れません。原因菌によってはお店の営業停止等にも関わるため、公衆衛生行政機関としては厳密な検査が求められます。

 国の定めた検査方法(公定法)に沿ったきちんとした方法で微生物を見つけだすと通常数日〜5日はかかりますが、スクリーニングとしてはより早い時間内で見当を付けることが求められます。対応が遅れると感染症が広がる恐れがあるからです。それを複数の遺伝子があれば、早期に原因病原体の見当がつき、感染拡大予防につなげることができる、そういうものを作りたい、という思いがありました。

 2011年に東日本大震災が起こりました。多くの人が身を寄せる避難所で食中毒のような症状が出た場合、早く診断しないと狭い場所で一気に症状が広がる可能性があります。こんな時に早期診断できる方法があれば、という思いを企業側も我々も持っていました。そこからお互いの研究のノウハウを交換し、さらに共同研究として川崎市と市内企業とで共同研究契約を締結し、プロダクトとして十数種類の病原体を1時間かからずに検出できるDNAチップとそれを測定する機器が開発されました。

 我々の持っているノウハウ、企業が持っているノウハウを共有することで新しいものが創生できるのです。出来上がったものは公衆衛生対策上、非常にインパクトのあるものだと思っています。

蚊が媒介する感染症と、川崎市健康安全研究所

 デング熱という病気は、熱帯アジアに多い感染症ですが、大正・昭和の始めの時代からすでに日本でも知られていました。第二次世界大戦終了頃には、国内でのデング熱の流行的発生がありましたが、その後は海外で感染を受けた人が国内で発症する「輸入感染症」として時々の発生はありましたが、そこから国内で感染が広がることはありませんでした。今回は、都内の公園を中心に、国内で感染が広がったということが70年ぶりの出来事でした。デング熱の他にもウエストナイル熱、マラリア、日本脳炎のような『蚊が運ぶ病気』というのは、公衆衛生上そして病気としても重要です。

 川崎市の7〜8箇所に、蚊をトラップする場所をきめて仕掛けを設置し、トラップした蚊の種類や、それらの蚊が「蚊が運ぶ病気の病原体」を持っているかどうかというモニターを、すでに十数年当研究所では行ってきています。公衆衛生の対策は、何か起こってから直ぐの対応をする、ということではなく、元々常に行っていることに一定の時間とお金と人をかけることが必要でありまた重要である、と思います。

『国際的な』キングスカイフロント

キングスカイフロントは『国際』という言葉がキーワードです。国内には存在しない、輸入される感染症を監視して警戒する取組も必要です。また海外に対する日本の玄関口として、国内・市内だけでなくもっと広い視野に立って、人に関する病気や原因を見つめる、そして研究を行う必要があります。

 いろいろな分野の研究者がひとつの場所にいることは非常に有利なことです。ここから何かが創り出されて「One World, One Health(世界は一つ、健康は一つ)」に結びつきます。「Health」を共通テーマとして取り組み、私の研究所は、理科学、微生物部門、感染症情報の収集・分析・還元(サーベイランス)部門を持つ公衆衛生研究機関として「One World, One Health」の一部となってキングスカイフロントの国際的発展にもつなげていきたいと考えています。

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