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特定の種類のヒト心臓線維芽細胞が虚血性心不全ラットの心機能を改善

Vol.19,December 2020

虚血性心不全治療の新たなアプローチ

特定の種類のヒト心臓線維芽細胞が虚血性心不全ラットの心機能を改善

虚血性心疾患は世界の死因第一位を占めており、心臓組織への血液供給量を低下させることで心機能を悪化させ、心不全(虚血性心不全)の要因となる。このような虚血性心不全の病態悪化には心臓線維芽細胞(CF)が深く関わっていることが報告されているが、一方でCFは健常な心臓においては組織の恒常性維持に寄与している。このCFの多様な機能は、CFが発生学的に異なる細胞の集合体であり、その構成細胞種がそれぞれ異なる機能を担うことで説明できるのではないかと言われているが、詳細は明らかになっていない。株式会社メトセラの岩宮貴紘らはCF集団を分析した結果、リンパ管新生の誘導により心臓の収縮機能を改善する亜集団を特定した。

岩宮らは、CFの特定の亜集団が心筋を修復する機能を持つという仮説を立てた。これは、CFが心臓組織の環境状態に応じて、心臓発生と心修復、病態発生など「プラス」にも「マイナス」にも働くという概念に着想を得ている。前者の根拠として、例えば心組織の形成にCFが必須なことが挙げられる。CFは、他の様々な種類の細胞の細胞外マトリックス(ECM)恒常性を制御し、細胞増殖/細胞死バランス、オートファジー、細胞の接着および移動を調節することで心臓の組織形成を調節している。一方、後者の根拠としてはCFが心筋線維症の原因であることが知られている。このようにCFは心臓組織の環境状態に応じて異なる特性を呈する。

まず岩宮らはヒト胎児CFのCD90(線維芽細胞マーカー)および様々な心臓リネージュ細胞マーカーの共発現をフローサイトメトリーによって評価した。その結果、調べたマーカーのうちvascular cell adhesion molecule-1(VCAM1)の発現のみが二峰性を示し、CFがVCAM1の発現の有無により2つの亜集団に大別されるヘテロな細胞集団であることが明らかとなった(図1)。

バイオインフォマティクス解析によりこの2つのポピュレーションの心臓内での役割を探索したところ、VCAM1陽性CF(VCF)は血管新生およびリンパ管新生に関連する遺伝子群を多く発現し、VCAM1陰性CF(VNCF)は、線維化に関連する遺伝子群を多く発現することが明らかとなった。脈管形成アッセイにより、VCFの血管新生能とリンパ管新生能を評価したところ、主にVCFは心臓のリンパ管新生を効率的に誘導する機能を担うことが分かった。近年の研究により、心臓のリンパ管新生は、浮腫を低減することで、虚血性心不全の病態悪化に伴い低下した心臓の収縮能を改善することが報告されている。これらの結果から、岩宮らはVCFがリンパ管形成を促進することで、虚血性心不全後の心機能を回復させると考えた。

そこで虚血性心不全ヌードラットにヒトVCFを投与し、心機能の変遷を経過観察したところ、VCF投与ラットでは、プラセボ投与ラット(溶媒対照)と比較して心収縮能および心室壁の機械的特性が大幅に増進していることを確認した。また、投与18週間後の心臓を病理学的に評価したところ、VCFは梗塞部位にリンパ管内皮細胞を動員することで心不全後の心機能を回復している可能性が非常に高いと結論した。

今回の研究結果は非常に有望である。岩宮らは、「これらの結果は、VCAM1を発現するヒト心臓由来線維芽細胞の亜集団(VCF)が、心臓内でリンパ管の発達に重要な役割を担っていること。そして、VCFのリンパ管新生能は、虚血性心不全の収縮能を大きく改善できることを示しています。今後、VCFによるリンパ管新生の詳細な分子機序を解明することで、心臓の発生および虚血性心不全の病態に関する新たな洞察が得られ、心臓再生分野の発展にも寄与できるのではないかと考えています」と述べている。

Reference

Takahiro Iwamiya, Bertrand-David Segard, Yuimi Matsuoka, and Tomomi Imamura, Human cardiac fibroblasts expressing VCAM1 improve heart function in postinfarct heart failure rat models by stimulating lymphangiogenesis.

PLoS ONE 15(9): e0237810 (2020)
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0237810

Figure:

図1:心臓線維芽細胞におけるCD90および様々な心臓系列細胞マーカーの共発現。VCAM-1は二峰性分布を示している。
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