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ヒトナチュラルキラー細胞機能を解析できる初の生体モデル

ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫に属し、侵入してくる病原菌や微生物に対する防御の第一線を担う重要な細胞である。NK細胞は、血流中のリンパ球のおよそ5~25%を占め、がん発症の過程においても重要な免疫監視機能を担っている。また、NK細胞は極めて強力な細胞障害作用をもち、腫瘍を攻撃することによりがん組織を直接殺傷できる。実際に、NK細胞の腫瘍攻撃能力を利用したがん治療法がすでに存在する。

しかしながら、今までヒトNK細胞機能の研究は主に培養細胞(in vitro)を用いて行われており、生体内(in vivo)での機能は十分に解明されていなかった。そのため、生体内でヒトNK細胞が長期にわたって生存し、その機能が維持されるin vivoモデルの開発が必要である。

実験動物中央研究所・免疫研究室では、これまで様々な免疫不全マウス系統の作製を進めており、その中でT細胞の増殖を促すことが知られているヒトインターロイキン2(IL-2)タンパクを発現する新しいNOGマウス亜系統(NOG-IL-2 Tg)を作製した。このNOG-IL-2 Tgマウスへヒト造血幹細胞を移植したところ、驚いたことにマウス体内でヒトNK細胞が優位に分化し、これらは長期にわたってその機能を保持しながら生存した。

さらに同研究室と慶応大学医学部の研究チームは、NOG-IL-2 Tgマウスにヒト腫瘍を移植し、分化したヒトNK細胞がヒト腫瘍の増殖を強力に阻害することを確認した。これらの結果から、同マウスモデルはヒトNK細胞のin vivo機能の研究にとって極めて有用であると思われる。

publication and Affiliations

I. Katano,*,† T. Takahashi,* R. Ito,* T. Kamisako,* T. Mizusawa,* Y. Ka,* T. Ogura,* H. Suemizu,* Y. Kawakami,† and M. Ito*. Predominant development of mature and functional human NK cells in a novel human IL-2–producing transgenic NOG mouse. The Journal of Immunology 194 (2016) DOI: 10.4049/jimmunol.1401323

*Central Institute for Experimental Animals, Kawasaki-ku, Kawasaki 210-0821, Japan

†Division of Cellular Signaling, Institute for Advanced Medical Research, Keio University School of Medicine, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan

*Correspondence: takeshi-takahashi@ciea.or.jp

Figure:

Figure 1.
X線照射後のNOG-IL-2マウスにヒト臍帯血由来CD34+造血幹細胞を移植し、ヒト化マウスを作製した。ヒト化したNOG-IL-2 Tgマウスの末梢血中で認められたヒト細胞のほとんどがNK細胞であった。

Figure 2.
ヒト化NOG-IL-2 Tgマウスにヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562腫瘍細胞を移植し、マウス末梢血中のヒトNK細胞の存在比と腫瘍の大きさを経時的に観察した。その結果、ヒト化NOG-IL-2マウスにおいて移植腫瘍の増殖抑制が認められ、分化したヒトNK細胞がヒト腫瘍を直接排除している可能性が示唆された。