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パーキンソン病の脳を再現
患者由来のiPS細胞を用いてパーキンソン病を解明

パーキンソン病は世界で2番目に多い進行性の神経変性疾患であり、その患者数は1,000万人にのぼるものの、現時点では治療法がない。その主な理由として、パーキンソン病の脳に見られる異常の再現が難しいことが挙げられる。慶應義塾大学の田端芳邦、岡野栄之らは、パーキンソン病の病態を解明すべく、人工多能性幹細胞(iPS細胞)技術を用いてモデルを作製した。

iPS細胞は成熟細胞であり、腎細胞、肝細胞、脳細胞(神経細胞)など、体のさまざまな細胞を作成できる。本技術は再生療法で使用されている。今回、田端らは、特定の遺伝子(PARK2)に変異が見られる遺伝性パーキンソン病患者に由来するiPS細胞を使用した。iPS細胞は、パーキンソン病の患者で障害されると考えられているドーパミン作動性ニューロンへと分化誘導された。こうして、パーキンソン患者の脳に見られる障害されたニューロンが再現された。

パーキンソン病発症の主な原因として酸化ストレスがある。神経細胞中に有害な物質が蓄積し、内因性抗酸化剤ではもはや対処できなくなるのだ。患者由来ドーパミン作動性ニューロンにおいて、酸化ストレスの増大が見られた。また、ロテノン(ミトコンドリアの機能阻害により、パーキンソン病を引き起こすことで知られる殺虫剤)への曝露によりニューロンの細胞死が増大した。このような結果から、酸化バランスの維持およびミトコンドリア保護における健常(非突然変異)PARK2遺伝子の役割が示唆された。

研究チームは、さまざまな機序の既存薬ライブラリーを用いて、PARK2が関与するパーキンソン病に対する効果を評価した。ロテノンにより誘発される細胞死からニューロンを保護する効果に基づき候補物質を絞り込んだところ、カルシウム拮抗薬であるベニジピンが有望であることが判明した。カルシウム拮抗薬は、T型カルシウムチャネルを介したカルシウム流入を阻害することで、細胞中のカルシウム濃度を安定させる。さらに、PARK2とは異なる遺伝子異常を有するパーキンソン病(PARK6)患者由来ドーパミン作動性ニューロンを用いた検討でも、同様の効果が見られた。このように、パーキンソン病での神経細胞死におけるT型カルシウムチャネルの役割が明らかになった。

今回の研究は、パーキンソン病の脳で生じる異常を再現する有望なモデルを示している。著者らは、「本モデルは、パーキンソン病の病態解明や治療法開発につながる可能性がある」と結論している。どのような疾患も、病態の正確な解明ができてこそ、真の前進が実現する

Reference:
Tabata, Y. et al. T-type Calcium Channels Determine the Vulnerability of Dopaminergic Neurons to Mitochondrial Stress in Familial Parkinson Disease. Stem Cell Reports11, 1-14 (2018)
https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2018.09.006

Figure:

(図中キャプション)

  • 健常
    他のイオンチャネル
    T型Ca2+チャネル
    Ca2+流入
    ロテノン
    ミトコンドリア
    ミトコンドリア複合体I活性:喪失
    ミトコンドリアの質管理:正常
    細胞間Ca2+濃度:正常
    細胞生存
  • PARK2
    Ca2+流入
    ロテノン
    ミトコンドリア複合体I活性:喪失
    ミトコンドリアの質管理:喪失
    細胞間Ca2+濃度:高すぎる
    細胞死
  • PARK2(CCAあり)
    ロテノン
    ミトコンドリア複合体I活性:喪失
    ミトコンドリアの質管理:喪失
    細胞間Ca2+濃度:改善
    細胞生存

図1. ロテノンに曝露されたPARK2細胞では、T型カルシウムチャネルの異常により細胞死が増大する。カルシウム拮抗薬(CCA)は同チャネルを阻害することにより、PARK2細胞を細胞死から保護する。