非侵襲的な磁気共鳴イメージング(MRI)を使ってマーモセット脳の詳細なマクロマップが初めて作成された。小型霊長類であるマーモセットは、神経疾患研究、幹細胞研究、薬物毒性および免疫分野での使用が増している。
これまで、脳MRI画像をボクセル単位で統計解析するVoxel Based Morphometry(VBM)により、ヒヒにおける遺伝子の解剖学的影響、チンパンジーにおける灰色質非対称性、ニホンザルにおける道具使用訓練の効果、およびアカゲザルにおける灰色質の加齢性変化の特性解析が行われている。今回、理化学研究所脳科学総合研究センターの入来篤史博士と慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授の研究により、初となるマーモセット脳の集団平均テンプレートが作成された。
マーモセットは、コミュニケーションを頻繁にとる社会性が高い種であることから、神経科学研究で幅広く使われている。マーモセットは小型、繁殖力が高い、ならびに性成熟までの期間が短いなどの特徴を備えている。
入来博士と岡野教授は、慶應大学医学部、実験動物中央研究所、理化学研究所脳科学総合研究センター、藤田保健衛生大学医療科学科ならびに英国のUCL Institute of Neurologyの研究者らと共同で、組織区分および集団平均化した、コモンマーモセットの標準テンプレート脳アトラス画像を作成した。マーモセットは小型であるため扱いは容易である反面、脳が小さい(通常、マカークザルの11分の1)ことから別の課題もある。研究者らは比較的長めの計測を実施することで、高い空間分解能を有すると同時にノイズ比の低い画像取得に成功した。
加えて研究者らは、収集したマーモセット脳22データを対象に、手作業によるデータ解析を実施し、正確なスライス画像を検索した。その結果、脳梁のある部位がメスに比してオスで大きいことが明らかになり、脳アトラスによって性差が特定されることとなった。
作成されたテンプレートおよびマップは、ニューロインフォマティクス国際統合機構(INCF)日本ノードのウェブサイトにて閲覧可能
(http://brainatlas.brain.riken.jp/marmoset/)。
Publication and Affiliation
K. Hikishima 1,3,†, M.M. Quallo 4,5,†, Y. Komaki 1,3, M. Yamada3,6, K. Kawai 3, S. Momoshima 2, H.J. Okano 1, E. Sasaki 3, N. Tamaoki 3, R.N. Lemon 4,5, A. Iriki 4,5*, H. Okano1,* Population-averaged standard template brain atlas for the common marmoset (Callithrix jacchus). Neuromage, 54, 2741-2749, (2011).
- Department of Physiology, Keio University School of Medicine, 35 Shinanomachi, Shinjuku, Tokyo 160-8582, Japan
- Department of Diagnostic Radiology, Keio University School of Medicine, 35 Shinanomachi, Shinjuku, Tokyo 160-8582, Japan
- Central Institute for Experimental Animals, 1430 Nogawa, Miyamae, Kawasaki, Kanagawa, 216-0001, Japan
- Laboratory for Symbolic Cognitive Development, RIKEN Brain Science Institute, 2-1 Hirosawa, Wako, Saitama, 351-0198, Japan
- Sobell Department of Motor Neuroscience and Movement Disorders, UCL Institute of Neurology, London WC1N 3BG, UK
- Faculty of Radiological Technology, Fujita Health University School of Health Sciences, 1-98 Dengakugakubo, Kutsukake-cho, Toyoake-shi, Aichi 470-1192, Japan
*corresponding authors, e-mail address:hidokano@sc.itc.keio.ac.jp
Figure:
高解像度のマーモセット脳解剖学的画像:コロナル(縦断面)画像((a) 緑色ライン)は軸面に対し垂直で、耳部((d)のオレンジ色ライン、Y±0)を通るスライスより前方10mmの位置。サジタル(横断面)画像((b)、黄色ライン)の位置は正中横断面((d)のオレンジ色ライン、X±0)。軸位画像((c)青色ライン)は、軸平面((d)のオレンジ色ライン、Z±0)で外耳部および眼窩下縁を通るスライスより上方10 mmの位置。