知的財産の創出とマネジメントは研究開発(R&D)の重要な側面である。従来これは産業界の研究所で行われてきた。同時に、イノベーションはしばしば産官学の連携を通して生まれる。このように、異なる環境で活動する異なる専門分野のさまざまな関係者が関与することから、最適な知的財産マネジメントは決して容易ではない。今回、川﨑市産業振興財団の宮下 修人らは、公的資金による産官学連携R&Dの事例研究を行った。その結果、こうした状況における知的財産マネジメントの最適化に向けた戦略が提案された。
宮下らは、2009年から2013年にかけて日本で実施された最先端研究開発支援(FIRST)プログラムに着目した。同プログラムでは、国際的な産業競争力のためのイノベーションに重点を置き、日本のトップ研究者30人にR&D資金が提供された。知的財産権の創出を促進または阻害した要因を特定すべく、宮下らは、まず同プログラムから生み出された特許を調べた。知的財産創出に関するベストプラクティス事例(NanoBio First)における特許発明者間の連携を詳細に検討したところ、主要な関係者が関与している共同発明者ネットワークの存在が明らかになった。
宮下らは、ある人物(発明者33)がネットワークの中心的ポジションを占めていることに注目した。この人物は、プロジェクトリーダーによって設立されたスタートアップ企業のチーフサイエンスオフィサーであり、同企業は知的財産の創出において非常に積極的な役割を果たしていた。また、プロジェクトリーダーへのインタビューを通して、知的財産をうまく管理する上で、プロジェクト参加者には適切なビジネス志向のマインドセットが求められることが明らかになった。このようなマインドセットは、現任訓練(OJT)を通して獲得できる。特に重要なのは、互恵的なマインドセットを持ち、R&Dサイクルの始まりから、未来の技術の社会的実装を勘案したイノベーションモデルを支持することである。
宮下らは、また、知識の消費者/生産者環境に特有の「情報の非対称性」に関連する問題を取り上げている。当該環境では、消費者(産業界および/または資金提供者)は、生産者(プロジェクト参加者)が開発した知識を先験的に入手できない。第一の問題は逆淘汰である。すなわち、消費者は、単に最も多くの特許を開発する生産者を好む場合がある。これらの知識生産者は、互恵的なマインドセットを有していない傾向にある。第二の問題は、モラルハザードである。生産者は特許出願および手続きにする考え方が甘い場合があり、これが知識消費者に悪影響を及ぼすリスクとなる。宮下らは、互恵的なマインドセットの醸成、特化した新会社の設立、ならびに研究者に対する、知的財産の創出に向けた潤沢なR&D資金およびインセンティブを含む契約の提供により、これらの問題に対処できることを見出した。
川﨑市産業振興財団の科学者による今回の研究は、知的財産マネジメントの向上に向けた重要な提言を提供している。それでもなお、宮下らは、今回の研究にはある程度の限界があると指摘する。すなわち、今回の研究は単一事例に基づいていること、数学的に厳密ではないこと、そしてR&Dの成果は企業秘密である可能性が勘案されていないのだ。「改良モデルは、より複雑な状況における意志決定の分析を促すことになるであろう」と宮下らは述べている。
Reference:
Miyashita, S. et al. Intellectual Property Management in Publicly Funded R&D Program and Projects:
Optimizing Principal-Agent Relationship through Transdisciplinary Approach
Sustainability 2020, 12, 9923
https://doi.org/10.3390/su12239923
Figure:
図:[論文の図2]
特許の共同発明者ネットワーク。発明者33が中心的ポジションを占めている。