研究の概要
新しい薬や治療法を開発するにあたり、最終的に人に応用する前に動物実験で安全性や有効性を確認します。その際、普通はマウスが多く使われますが、マウスではその安全性が分からない時に、霊長類の実験動物を使うことがあります。動物にはいくつか種類がありますが、『コモンマーモセット』という小さな猿の実験動物化を行っています。私たちは、このマーモセットのトランスジェニックや、遺伝子ノックアウトマーモセットなどの作成技術を、世界に先駆けて開発しています。
印象深い発見
2009年にネイチャーで発表した、トランスジェニックマーモセットとの作成技術の開発が一番印象に残っています。それまで、霊鳥類でトランスジェニック猿を作っても、次の世代に遺伝子が伝わらず、一代限りの実験しかできないと思われていましたが、我々は子供の世代にも遺伝子が伝わることを発見しました。霊長類でも様々な人の疾患モデルを作り、薬や治療法の開発ができる、ということがわかった瞬間は大変印象深く覚えています。
応用研究
パーキンソン病モデルやアルツハイマー病モデルの動物を作り、病気を治すだけでなく発症しないようにする、発症を遅らせる薬を作ることができたら良いな、と思っています。実はマウスでも多くのパーキンソン病モデルの遺伝子改変マウスが作られてきましたが、病気の進行具合や症状を同じように再現できるマウスは作られていません。猿でもパーキンソン病モデルの開発が行われてきましたが、人の症状の一部しか再現できていません。ですが、トランスジェニックでパーキンソン病モデルを作ると、人と同じように初期の発症から進行するモデルができます。進行があまり進んでないときにその病気の進行を抑える薬ができるのではないか、と考えています。
アイデアの源泉
学生の時から、トランスジェニックニワトリの作成の研究をしていました。食糧不足の解決の目的の研究だったのですが、消費者たちが遺伝子組み換え食品は食べたくない、という風潮が現れて研究領域がかなり縮小してしまいました。ですが、私は発生学の基礎研究としてトランスジェニック技術はとても大事だと思っています。マウスは技術が確立していますが、基盤研究よりもむしろ遺伝子の解析に使われており、もう少し違うことができないかな、と思い探していた時、このマーモセットに出会いました。
実験中央研究所での研究がうまくいく理由は、マーモセットの飼育技術が世界最高であること、そして必要な分だけ数も過不足なく使うことができるからだと思います。そして何よりも、その当時に一緒に研究していたチームの皆がとても熱意を持って一生懸命やってくれた、ということが大きく寄与していると思います。
社会への貢献
様々な薬を使ったときの有効性や安全性を、人に副作用が少ない状況で評価できる疾患モデルを作ることができることが貢献になると思います。ただし、動物モデルを作る部分については、かなりルーチンワークになるため、去年の10月にトランスジェニックマーモセットを作る事業チームを作りました。このチームは事業として製薬会社とお仕事ができると思っています。私自身が研究者として解決しなければいけないと思っていることは、マーモセットというのは非常に繁殖力が高い霊長類だと言われてますが、マウスに比べると生育スピードが遅く、せっかく良いモデルができてもたくさんの人に使ってもらうことができません。次の世代までのライフサイクルが長い、というボトルネックを解決する研究を進めたいと思います。
これからの研究
一つはそのES細胞、iPS細胞から生殖細胞を作って、体外授精で次の世代を作ることです。例えばトランスジェニックマーモセットが生まれたら、次の日に少し血や皮膚をもらって、それからiPS細胞を作り精子や卵子を作れば、この子が生まれた次の日から次の世代を育てる仕事を始めることができます。
もう一つは、少し専門的になりますが、マウスではES細胞を他の個体の受精卵に移植してキメラのマウスができますが、まだマウスとラットでしか出来ないため、世界中の肝細胞の研究者が研究して解明中です。これを解明してマーモセットでもそのES細胞、iPS細胞でキメラ細胞を作るということをしたいと思っています。
キングスカイフロントに期待
羽田空港が近いので、国内外からアクセスがしやすい場所です。
私たちは猿を使った研究していますが、実は、猿というのは、たった一滴の血液サンプルでも輸出入するのがとても大変です。であれば飛行機で人がここに来て実験した方が早い、ということになるのです。この実験動物中央研究所がマーモセットの研究の拠点になるでしょう。
また、キングフロントには、違う領域の研究所がありますので、私は医工連携にも力を入れていけばいいな、と考えています。