川崎スカイフロント(キング スカイフロント) i-Newsletter

川崎スカイフロント(キング スカイフロント) i-Newsletter

リサーチハイライト

Vol.5, October 2015

ガドリニウムベースのナノ粒子で腫瘍を描出し、除去する

中性子捕捉療法(NCT)は、がんを局所的に治療できる効果的な放射線療法である。しかし、がん性細胞のみを確実に破壊するためには、NCT用薬剤が腫瘍に選択的に集積すること、そして標的とする腫瘍の位置を特定することが重要となる。

今回、川崎市産業振興財団の研究者らが主導する共同研究において、生体マウスを対象に、ガドリニウムベースのナノ粒子を使ったがんのイメージングと治療が行われた。

リチウム、ホウ素、ガドリニウム、およびウランなどの安定元素では、無害の低エネルギー中性子の吸収によって核反応が誘発され、隣接する細胞を破壊する高エネルギー粒子やガンマ線が放出されるために、NCTは腫瘍細胞を取りこぼしなく叩けるという潜在的利点がある。また、ガドリニウムを用いた場合にはMRI造影剤としても使用されている。

東京大学の片岡一則教授らと、川崎市産業振興財団、東京工業大学、放射線医学総合研究所、および京都大学の研究者らは、MRI造影剤として広く使用されているガドリニウム錯体(Gd-DTPA)を腫瘍細胞へと選択的に送達するナノマシンを開発した。Gd-DTPAを内包するCaPミセル(Gd-DTPA/CaP)は、血中を安定に循環し、腫瘍組織に選択的に取り込まれる。そして腫瘍細胞に取り込まれたナノマシンがpHの変化に反応して崩壊し、Gd-DTPAを放出するという仕組みだ。

「Gd-DTPA/CaPは、腫瘍内で劇的に高いGd-DTPAの集積を示した。その結果、腫瘍細胞を選択的に造影することにより、MRIで腫瘍の位置を正確に特定することができた。Gd-DTPA/CaPは腫瘍/血液分布比が高く、体重減少を伴うことなく腫瘍の増殖を効果的に抑制した。安全ながん治療に向けたGd-DTPA/CaPの潜在力が示された」と、研究者らは論文に記している。

Publication and Affiliation

Peng Mi,1,2,3 Novriana Dewi,4 Hironobu Yanagie,4 Daisuke Kokuryo,5 Minoru Suzuki,6 Yoshinori Sakurai,6 Yanmin Li,7 Ichio Aoki,5 Koji Ono,6 Hiroyuki Takahashi,4 Horacio Cabral,7 Nobuhiro Nishiyama,*,1,2 and Kazunori Kataoka*1,3,7,8 Hybrid calcium phosphate-polymeric micelles incorporating gadolinium chelates for imaging-guided gadolinium neutron capture tumor therapy. ACS Nano, 9, 5913–5921, (2015).

  1. Innovation Center of Nanomedicine, Kawasaki Institute of Industry Promotion, 66-20 Horikawa-cho, Saiwai-ku, Kawasaki 212-0013, Japan
  2. Polymer Chemistry Division, Chemical Resources Laboratory, Tokyo Institute of Technology, R1-11, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan
  3. Center for Disease Biology and Integrative Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan
  4. Department of Nuclear Engineering and Management, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan
  5. Molecular Imaging Center, National Institute of Radiological Sciences, Anagawa 4-9-1, Inage, Chiba, 263-8555, Japan
  6. Research Reactor Institute, Kyoto University, Asahiro nishi, Kumatori-cho, Sennan-gun, Osaka 590-0494, Japan
  7. Department of Bioengineering, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan
  8. Department of Materials Engineering, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan

*corresponding author, e-mail address: nishiyama@res.titech.ac.jp, kataoka@bmw.t.u-tokyo.ac.jp.

Figure:

ガドリニウム中性子捕捉療法(GdNCT)において腫瘍を標的とするGd-DTPA/CaPハイブリッドミセルのイメージ図。(a) 高い浸透性を有するGd-DTPA/CaPが腫瘍細胞に選択的に取り込まれ、Gd-DTPAが同細胞に集積する。(b) 低エネルギー熱中性子線照射は、NCT用薬剤を含まない正常細胞を殺さない。(c) 熱中性子線を照射すると、捕捉された熱中性子との核反応後にGd核種から放出されるガンマ線によって、がん細胞を死滅させる、あるいは傷害を与えることができた。© 2015 The American Chemical Society