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リサーチハイライト

Vol.2, December 2014

改良された免疫不全マウスを使ってヒトアレルギーモデルを確立

ある種の免疫不全マウスにおいて、機能的なヒト免疫系が初めて再構築された。今後、アレルギー疾患と免疫疾患およびその治療法の研究に向けた有益なモデルになると期待される。

過去20年にわたり、「ヒト化マウス」の作製に向けた研究が進められてきた。NOGマウスという重度の免疫不全マウスでヒト免疫系を再構築することにより、これらのヒト化マウスは、がん、感染症および移植片対宿主病(GVHD)などのヒト疾患研究に向けたモデルシステムとなる可能性がある。これまでに得られた知識は、治療薬や治療法の開発に役立つであろう。

実験動物中央研究所、慶應義塾大学、日本大学、および国立病院機構相模原病院の研究者らによる共同研究では、重度免疫不全マウスに対するヒト造血幹細胞移植に成功していた。しかし、これらの幹細胞からミエロイド系細胞、マスト細胞および顆粒球(白血球一種)への分化はほとんど見られなかった。最近の研究では、アレルギー性の炎症反応におけるこれら細胞の役割に注目が集まっていることから、当該細胞を産生するヒト化マウスモデルの重要性は一層高くなる。

研究者らは、幹細胞から免疫系細胞への分化が進まないのは、細胞間情報伝達タンパク質であるサイトカインの供給不足が原因であると仮定した。研究者らがサイトカインを発現する免疫不全マウスを作製したところ、多数のヒト骨髄細胞、顆粒球およびマスト細胞が認められた。また、サイトカイン発現免疫不全マウスでは、スギ花粉症患者由来の血清による感作後、スギ花粉抽出物に対して強いアレルギー反応が見られた。

同研究の論文において研究者らは、「これらのモデルによってアレルギーの原因となる細胞・分子機序の解析が可能になるであろう。抗アレルギー薬の開発に向けた有用なツールとして今後期待されるモデルである」と結論している。

Publication and Affiliation

Ryoji Ito1,2, Takeshi Takahashi1, Ikumi Katano1, Kenji Kawai1, Tsutomu Kamisako1,
Tomoyuki Ogura1, Miyuki Ida-Tanaka1, Hiroshi Suemizu1, Satoshi Nunomura3,
Chisei Ra3, Akio Mori4, Sadakazu Aiso2, and Mamoru Ito1 Establishment of a human allergy model NOG mice using human IL-3/GM-CSF -transgenic. Journal of Immunology, 54, 2741-2749, (2011).

  1. Central Institute for Experimental Animals, Kawasaki-ku, Kawasaki, Kanagawa 210-0821, Japan
  2. Department of Anatomy, Keio University School of Medicine, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan
  3. Division of Molecular Cell Immunology and Allergology, Nihon University, Graduate School of Medical Science, Itabashi-ku, Tokyo 173-8610, Japan
  4. National Hospital Organization, Sagamihara National
    Hospital, Clinical Research Center, Minami-ku, Sagamihara, Kanagawa
    252-0315, Japan

*corresponding authors, e-mail address:mito@ciea.or.jp

Figure:

スギ花粉症患者の血清に対する皮膚反応。アレルギー反応を生じさせ、エバンスブルーで染色した。スギ花粉抽出物およびエバンスブルーを全身投与し、30分後に背面皮膚を採取した。左-サイトカインの発現が見られるヒト化トランスジェニックNOGマウス;中央-ヒト化非トランスジェニックNOGマウス;右-非ヒト化NOGマウス。背面皮膚の代表的画像。